思い出のクリスマス

子供時代の忘れられないクリスマスの思い出というと・・・


突然、白昼堂々とサンタクロースが玄関から入って来たことだ。
私が幼稚園の頃だったと思う。
その頃、あるおもちゃ屋の企画だったそうで、かなり本物っぽいサンタがやって来た。大きな白い袋から、私と弟にプレゼントを渡して立ち去った。サンタと何か言葉を交わした記憶は無いし、サンタの方からも私たちに声を掛けるとかは無かったように思う。ただニコニコしていただけのような。あれがもしヘラヘラしたサンタだったとしたら、私の思い出も随分違ったように思われる。あのいつも親に連れて行ってもらっているおもちゃ屋のお馴染みオッサンだとか子供にもバレバレで夢も何も無かったように思う。
あのサンタさん、肌が抜けるように白くて、ちょっと桜色っぽい感じもあって、一番強烈だったのが、目の色が黒くなかったことだ。透き通ったような、グレーのような青のような不思議な色だった。まさかあの時代にカラーコンタクトは無かっただろう。背も高くて体格もがっちりとしていて、今思うと彼はたぶん日本人ではなかったと思う。だからきっと日本語があまり話せずに、私たちからの呼び掛け(「サンタさんはどこから来たの?」など)にも応じなかったのだと思う。
サンタさんは、小型トラックに乗って去って行った。トナカイが引っ張るそりではなかったけど、そんなことはどうでもよかった。私は親を質問攻めにする子供ではなかった。あれこれ自分なりに想像しては楽しんでいたという子供だった。だから、ある日なにかのきっかけで自分の想像が全く現実とは掛け離れていることを知ったりすると、それはそれはショックだった憶えがある。現実を直視するのをとても怖がる子供だった。今でもそれは引き摺っているように感じる。
〈きっと街中をそりでなんて走ったら車が付いていないから走り難いだろうし、トナカイも車にぶつかったりして危ないからな・・・だからトラックで来たんだよ。でもどこから来たんだろう?あのトラック、空を飛ぶのかも知れないよ、もしかしたら〉 いつまでも弟と窓から空を見ていた。
あ、それでちなみにプレゼントは何を貰ったかというと、私には手を繋いで歩く人形、弟には電車とレールのセット、でした。


もう一つの思い出は、10歳頃だったと思うが、学校から帰って来ると、応接間に生のクリスマスツリーが飾ってあったことだ。TV映画や写真などでしか見たことがなかったので、びっくりして暫く木の周りから離れなかった。もちろん今の北米のようなツリーファームで育ったものではなく、自然の木を農家に注文したそうで、そのために枝もパラパラしていた。自然のもみの木ってのは、植林されたものと違って、びっしりとした枝ではなく、枝と枝の間にかなり隙間があるのが特徴だ。
ツリーのデコレーションは、毎年「クリスマス」と書かれた段ボール箱から出して来たもので代わり映えしなかったけど、とにかくその生のツリーに夢中で、他はどうでもよかった。根が付いたまま木箱に植えてあったが、クリスマスが終わると、テラスの、レンガで囲ったガーデンに植え替えられ、確か2、3年そのツリーがクリスマスになる度に登場した。その頃には子供用のシャンペンなんかもあって、なかなか素敵なクリスマスを祝う習慣が日本にも普及して来た頃なんだろうね、きっと。