廊下の足音

母から聞いた伯父の話。
数日前のこと。
伯父が夜寝ている時、物音で目が覚めたそうだ。
廊下を誰かが歩いている音だ。
伯母がトイレにでも起きたんだろうと思ってふと伯母の寝床を見ると、彼女はちゃんと寝ているではないか。
はっきりと誰かが廊下を歩いている。
しかも一度だけじゃなく、二度もはっきりと聞いたらしい。
伯父はすっかり怖くなって布団を頭から被って寝てしまおうと思った。
ところが今度は、玄関の方から、下駄箱の戸を開ける音がして来た。
堪らなくなって伯父は起き出して廊下に出てみた。
玄関にも行ってみた。
誰もいない。
下駄箱の戸も閉まったままだ。
伯父は、あまりこういう類の話はしない人なので、尚更怖さも一入だった。


この話を聞いて、母と私は、祖母の生霊が浮遊していると話した。
祖母は現在108歳だが、ここ最近あまり食事をしなくなり、水分補給さえも拒否するようになり、いよいよ駄目なのかもと案じていた時だった。
きっと亡くなる前に、自分の家を見たくなったのかもねと話していた。
ところが、実際母が祖母に会いに行くと、お腹が空けば食べ、お茶も飲んでいるとのこと。
108歳の身体のメカニズムなのだろう。
我々と同じペースでの飲食や排泄は、きっと有り得ないのかも知れない。
一日に一食かその半分。
排泄は、二日に一度とかになるのかな、人間そこまで生きていると。
とにかく祖母は元気を取り戻した。
となると、この足音はいったい誰の?
((((;- -))))


人間亡くなる直前に、家族や親しい人たちに残すサインってよくありますよね。
父方の祖父は、入院している病院の窓の外に、巨大な火の玉となって現れた。
父方の祖母は、茅ヶ崎の実家まで「音」だけでやって来て、門を開け、玄関を開け、階段を上って二階まで上がった。
彼女は更に、私が髪を洗っている時に(まだ当時私は日本に住んでいた)、後ろから私の肩を引っ張るようにして「早く早く」という彼女の声がした。
母方の祖父は、わが家の庭先に来ていたみたいで、当時の飼い犬が盛んに虚空に向かって吠え立てていた。
亡くなった直後というのもあります。
夫の姉は、亡くなった直後に、至近距離で最期を見届けた私に咄嗟に乗り移ったらしく、頭が割れるような痛みと、頭や肩にまるで誰かが圧し掛かったような重さで、私はその場で動けなくなってしまった。
夫の兄は、もっとすごい。
一番強烈かも。
亡くなった直後に夫の母の家に向かい、夫の母と弟の前に姿を現し、二人の見守る中、最初玄関の外に立っているのが窓から見え、と同時にキッチンの冷蔵庫の前に佇んで暫くこちらをジッと見つめ、それから突如として階段をするすると上って二階の部屋でしばらく歩き回り、それからまた再び階段を降りて来て、玄関のドアをすり抜けて外に出て行った。
ちなみに、その姿は半透明のようで、ぼんやりと見えるのだそうです。
夫の兄は、これだけじゃなく、死の直前にはわが家に来ていて、私と夫は病院で彼の傍に付き添っていたのだが、留守番していた子供たちが、二階の部屋にいたところ、玄関のドアが音を立てて開閉し、階段を上って来て、それを聞いた子供たちが、てっきり私たちが帰って来たのかと思っていたらしい。
部屋のドアを開けると、私たちの姿は見えず、「じゃぁ今の音、なあに?」ってことになって大変だったらしい。
とてもフットワークの軽い義兄だったが、こんなところにもそれが影響するんだろうかと思った。
その義兄の残した遺品が、わが家の地下室に保管されているんだけど、昼間でも一人で地下室に行くことはかなりの勇気が要る。