階級社会

日本では階級社会などという感覚は皆無だと思うし、実際日本で生活していた時に、そんなことは海外でのことだと思っていた私である。日本でバスや地下鉄、電車などを利用する際に、階級社会など感じることは全く無いし、これは日本人の階級意識にも関係していることだとは思うが、日本ほど階級の無い、あんなに徹底した平等社会は他に無いと私は思う。ケベックに住んでいて階級社会を感じることはあまり無いが、市営バスに乗ると感じることがある。これはパリでも同様の感覚があった。日本の市営バスとはだいぶ感覚が違うと私は感じるのだが。ケベックの場合、市営バスといっても、その中にも階級があって、通勤時間にしか走らないバスは公務員を始めとした定職者たちが多く乗るバスと、普段走りのメトロバスには、その雰囲気と客層に大きな違いがある。私は通常車を使っているのであまり市営バスに乗ることは無いのだが、以前車が壊れた時に仕方なく市営バスを利用したことがあった。その時にいろんな人を観察出来て面白かったが、常用はしたくないなと痛感させられるような出来事もたくさんあった。
目の前の席が空いたので座ると突然頭の上から怒鳴り声がした。すると私の目の前に灰色の目をかっと見開いた険しい形相の女性が。いきなりギプスを嵌めた片腕を私の顔の前に突き出して「私は怪我人なんだよ!あんたのその目にはこの姿が目に入らないのかよ!ええっ?」と乱暴なフランス語で捲し立てた。「あ、ごめんなさい」こんな女性が傍にいたとは気付かなかった。すぐ立ち上がった私を突き飛ばすようにしてその席に座り込んだ女性・・・見下ろしてマジマジと観察すると年の頃40代ぐらいだろうか、服装も毛玉のいっぱい付いた汚らしいセーター姿に、スーパーの袋を一つだけ手に持っている。肩まである髪の毛は白髪なのか全体的にグレーであちこちダマだらけだ。座ってもそのギプスを周りの人たちに見せ付けるようにしてブツブツ言い続けている。
猛烈にタバコ臭い、もしくは風呂に長い間入っていないような悪臭を放つ、傍に来ただけで呼吸も出来なくなるような人も結構いる。他にも訳の分からないことを話しかけて来たり、お金をせびったり、悪態をついたり、よろけるようにしてやっと歩いている老人とか、ガリガリと頭ばかり掻いている人とか・・・それも低所得者の多く住んでいる地域を通る時は特にひどい。