むくむくちゃん

今年の冬に母が入院した際に、私が根つめて編んだベッドカバーがある。
20×20センチぐらいの正方形を沢山編んで、それを最後に全部つなげていく編み方である。
何も考えないでただガムシャラになって編んだものなのだ。
まだ10代の頃、本屋で「サンイデー」(正しくはリエゾンするので「サンティデ」と発音するが)というフランスの雑誌をみつけてしばらく講読していたのだが、廃刊になってしまったので仕方なくフランスから直接注文購読していたものだ(そのフランス語版も後には廃刊となってしまうのだが)。
日本語版のものは必要なページのみ取って置き、それを何十年も大事に保管していたのだ。
とても作れそうにないけれどいいなあと思うようなものばかりである。料理のレシピもある。
その中にこのベッドカバーの作り方が紹介されていたのである。
今までにも何度か母に習って編んでみようかと考えたこともあったが、なかなかそこまで行き着かなかった。


今年始めに急に思い立って大量に毛糸を買い込んで編み出した。
山の様な毛糸にレジのおばさんから「何を編むんですか?」とよく訊かれた。
普段からマメに手先を動かしていれば問題ないのだろうが、不器用な私だ、まず編み物に慣れるまでだいぶ時間を要した。編み針などもどんどん増えていった。
そんな矢先に母の入院を知った。
編みながら時々ひとりで泣いた。
先日母が複雑な表情でこのベッドカバーを見ていた。
自分の入院していた日々を思い出しているのかも知れない。
これを掛けて寝るととても暖かい。
私が赤ん坊の頃、母が使っていた毛布を掛けてやると泣き止んで眠るので、それをずっと12、3歳の頃まで「むくむくちゃん」と名付けて大事にしていたのだが、
ある日こっそりと捨てられてしまい大泣きしたことがあった。
私の心の友でもあったこの小汚いボロボロの毛布とまた再会したような気分がするこのベッドカバー。
40代になっても永遠の「むくむくちゃん」である。
指編みもずっとご無沙汰だ。また復活してマフラーでも編んでみようかな。
ママちゃん(ローズさんの母上)に習って編めたらどんなにいいだろう。