名前は忘れてしまったのだが、ある言語学者の書いたものを以前に読んだ時。
「国際結婚において、女性優先、つまり妻の母国に住んだり、妻の母国語に合わせた生活が好ましい」という内容を読んで、「なるほど」と妙に納得した私だった。今もそう思う。
私の場合、夫の母国に住んでいるが、夫との会話は日本語が中心だ。これがもしフランス語オンリーだったら、私としてはかなり精神的ダメージを受けていたであろう、そんな気がする。疲れ切っちゃうというか。
夫は、日本に長く住んでいたので、日本語がそれなりに流暢ではあるが、それでも分からない時は、英語やフランス語に切り替えたり、お互い辞書を調べたりもするが、そこまでするのはほんとに稀で、大概は夫も通じていなくても通じた振りをしたりして、私も重要なこと以外は、深追いせずにそのままスルーして、後で説明しようと思っているうちに、いつの間に忘れてしまう、だいたいこんなことを繰り返している私たちである。
フランス語系の人たちというのは、大半が「フランス語を話せて当たり前」の考えだ。そういう社会での生活は、確かに厳しい面も多い。決して外国語など習得する気も、外国文化を学ぼうという気もなく、ただひたすら「こっちに合わせてくれ」の人が多いですよ。そんな人を私は友達にしないけどね、先ずは。そういう類は、深い見識も無いので、退屈な人間が多いようにも思うし。最初はほんとに話せなくて悔しい思いもしたけど、今ではわざとそういう類に対しては英語を使ったりするへそ曲がりな私だ。「どうしてフランス語を話さないのか?」の質問に、「どうして英語を話さないのか?」とこっちも質問すると、「ここはケベックだ」と言って来るので、「ここはカナダだ」と言い返すと、皆一様に黙る。ケベックではこれで通用するけど、フランスではちょっとね。当然ながら公用語フランス語だけだし。でも、不思議にフランスで「どうしてフランス語を話さないのか?」の質問を受けたことが無いんですよ。もちろん彼らは極力英語は使いたくない人たちだけど、「ヨーロッパ人なのにフランス語しか話せないなんて恥ずかしいんですよ」と自ら恥じ入る人や、私が英語を使うと、知っている限りの英語を使ったりとか、結構可愛いのである。
(これは私もよくやるんだけど)ケベックでもフランスでも見る光景で、片方がフランス語、もう片方が英語を使っての会話がよくありますよ。相手の使う言葉は分かる、でも絶対に自分を譲らないみたいな。別にだからといって相手を軽蔑したりとか喧嘩になったりということは皆無だけどね。こんなところも人権重視社会的な面かも知れない。生活習慣やものの考え方など「私は私、貴方は貴方」が欧米社会というところ。使う言葉にもそれが通用する場合がある。この自由な雰囲気は、欧米社会で生活していると、本当に心地よく感じる。
最初ほとんどフランス語が話せなかった時代に、会話の速度を落とす、簡単な言葉だけを選んで話す、相手の知っている言語に極力合わせるなどの思いやりのある人の存在がほんとに嬉しかった。
これはどこの国でも同じだろう。例えば日本でも、たどたどしい日本語を話す外国人に、わざわざ難しい言葉を選んで話すような底意地の悪いことはしないだろう。
「フランス語を話さない=人間じゃない」みたいのも結構いるから、どうしてもパーティーなんかではそういうのに出くわして不愉快な思いもしたけど、そんな時にいつも私の傍にいてくれて、私を守り抜いて来たのが夫であり、恋人であり、友人たちであった。「そういうアンタはフランス語しか話せないじゃないか」と反論してくれたり、私の言いたいことを代弁して私を守ってくれた。時には、私たちを「あの二人は二人だけの世界にいるから」と冷やかしたり、「そんなに守られていたのでは、彼女はなかなかフランス語を覚えないだろう」と非難する輩もいた。私はそういう強引で関白でしごき主流の人間はもっとも苦手だし、痛みを覚えながらものを習得するタイプでもないので。わざわざそんな痛い思いを好き好んでしなくても、こうしてなんとかフランス語を習得することが出来たしね。
自分の好きな分野とか自信のある分野と関係のある言葉は真っ先に覚えちゃうことが多いけど、私はそんなところからフランス語の輪の中に入って行った。そのうち、聞き役じゃなくて、なるべく自発的に話そうと心掛けた。これは、私が元々お喋り好きなのがよかったみたいだ。ま、いずれにせよ、よく分からない政治や経済の話は、母国語だろうが何語だろうが半眼うわの空状態には変わりないんだけどね。
ところで、日本人ほど母国語以外の言語習得に熱心で、外国文化に理解を示す人種はいないと思う。ケベック人で「ケベックにしか興味が無い」とか言ってるのがたまにいるんだけど、心から情けなくなるよ。そこから見たら日本人の勤勉な姿勢は素晴らしいと感動する。だから日本人との会話は面白いんだと思う。日本語も国際語としてどんどん世界に押し出して行きたい。
あ、そだ、言語とは関係無いかも知れないけど、うちの娘が今やたらに「〜ズラ」の会話を面白がって使うのね。先日最終回だった『銭ゲバ』*1をずっと見ていたからなんだけど、音的にとても気に入っているようです。しかもフランス語にも付けたりするので笑えるけど。「ウィ*2ズラ」とかね。