父と共に

ケベックの介護マノワールに滞在している父も元気に新年を迎えた。
暖かそうに燃える暖炉の前で、ロッキングチェアに座っていたかと思うと、突然立ち上がって踊り出す父。
まだ若かりし頃、『風と共に去りぬ』のレット・バトラーを気取ってよくダンスパーティーを開いていた父だが、今踊るダンスは、まるで幼子のよう。両手を合わせて叩いたり、足踏みをしてみたり、くるくる回ったりと、とても可愛いダンスなんである。
きちんと3食きれいに平らげ、健康上の問題も無く。ただアルツハイマーだけは後戻りすることはない。でも、処方されている薬で、たいぶ進行を食い止めることが出来ている。まだまだ元気に歩くことが出来るし。専属の担当医もいてくれるし、心から安心してお任せしている。看護師さんたちも元気な人ばかり。ジャンヌダルク、ミレイユ、リン、ダニエル、エレーヌ、ダイアナ、イザベル、モニク、・・・父だけじゃなくて、私たち家族ともお馴染みの皆さんだ。
最近、父はフランス語をだいぶ話すようになった。幼子に戻ったようなわけだから、案外習得が早いかもしれない。入所するまで、まったくフランス語を知らなかった父が、回りの人たちとフランス語でコミュニケーションを取っている姿には驚かされる。
ノワールでの食事はすべて手作り。デザートも全部手作り(糖分や塩分などの配合や栄養配分が厚生省規定によって決められている)。今日は美味しそうなチョコレートケーキを食べていた。明日は、クリームとマシュマロのケーキだとか。デザートの大好きな父は、いつもお代わりを催促し、嬉しそうに食べている。現役時代の父は、甘いものなどは一切口にする人ではなかった。
ここに滞在して3年目を迎える父。いつも自分の近くに父がいると思うと、以前のような例えようもない不安からすっかり解放された。ここまでが大変だったが、やっと父らしく尊厳を持って生活が出来るようになったことは、私たち家族にとって大きな喜びである。