丸正

もうあれから8年になる。
丸正の上層部の方々のツアーをお世話させて頂いた。夕食で使ったケベックのあるレストランに飾ってあった石の彫刻を丸正の飯塚正司会長が大変お気に召され、その同じ石と同じ彫刻家で会長ご夫妻の彫刻を作ってほしいとのオファーがあった。そのレストランのオーナーは画商でもあり、丁度その日の観光を担当した私が、彼らの交渉の通訳を依頼された。
使っている石はケベック州の最東端に位置するマドレーヌ島で採れるもの、そして彫刻家も同じマドレーヌ在住とのこと。後の交渉は画商であるレストランのオーナーに一任した。
ところが今度は丸正から直接私に連絡が来て、ずっと彫刻の完成まで交渉を手伝ってほしいとの依頼が来た。そんなこんなで交渉を繰り返しているうちに、オーナーと意気投合、マドレーヌ島に行ってみようということになり、私も初めて行くところだったのでワクワクだった。


マドレーヌ島


この赤い石が彫刻石の原材料となる。



彫刻家B氏のアトリエには、日本から送られた丸正の飯塚正司会長ご夫妻の写真が至る所に置いてあり、彼は日々イメージ作りに励んでいた。アトリエの片隅にあったテーブルにもご覧のように写真が。
B氏はここで、どうやって石を彫っていくのかを私たちに説明するために準備してくれていた。それも初めて彼のアトリエを訪ねる日本人のために、漢字の書いてある敷物を用意して待っていてくれたそうでなんだか嬉しかった。



マドレーヌ島在住の彫刻家B氏。



左からレストランオーナーで弁護士でもあるBA氏、ナルシス、彫刻家B氏。
私たち3人とここマドレーヌ島が、日本の丸正と関わっているのは意外な接点でしょ?
手前はまだ未完成の彫刻、これが丸正会長ご夫妻像。



石の採掘場所にて。いつも海岸はものすごい突風が吹き荒れている。



ひとつひとつが絵になる美しいマドレーヌ島。






すっかり意気投合した3人で、別荘として売りに出ていたライトハウスを共同で買おうという話が出たりして、ちょっと不思議なトライアングル関係だった。
〔質問して来た友達らへ;あのね、灯台そのものじゃなくてね、そしてその左側の窓もない物置小屋みたいのじゃなくてね、左側の大きな家を別荘として売っていたのね。この写真で分かる?見えるザンショ?ちゃあんと〕
BA氏はそこで絵を描き、マドレーヌ島のアーティストたちを発掘し、B氏は彫刻の制作に勤しみ、私は3人の子供と滞在する。
「イザベルとフレデリックが海岸で遊び回ってて、キミは台所で料理して、それであのテラスで海を見ながらみんなで食事するんだ」
2人の男性が勝手に考えた青写真。
ナル「え?え?ちょっと待った!なに?お料理するのは私一人?あなたたちの食事を私が全部作るの?なんか私だけすごく重労働じゃない?」
 B「あ、オレ買い物担当」
BA「じゃあ、オレは一緒に台所手伝う」
当時まだ独身だったお2人は実に暢気なものだった。
B氏は彼女と現在モントリオール在住、BA氏は双子を含む3人の子供のお父さんです。そして、私はすっかり太って・・・元気です。




丁度クリスマス前の時期だった。2泊3日の短い旅だったが、3人で明け方まで飲み明かしたり、時間を忘れて話し込んだり、島の端から端までドライブしたり、飛ばされそうになりながら海岸を散歩したり、アイリッシュダンスを踊ったり(マドレーヌ島にはアイルランド系が多い)、オーベルジュにあったピアノを私が弾いてみんなで歌ったり、名物のロブスターを食べたり・・・楽しい思い出である。

私たちが滞在したオーベルジュの場所はここ。

★「ピアノを弾いて歌ったとあるけど、ナルのことだから『むすんでひらいて』とか『さいたさいた』とかを無理やり彼らに歌わせたのではないでしょうか?それとも得意の『君が代』とか?」という小憎らしいメールが友達から来た。なんで私が最東端の島で幼稚園教諭をやらなきゃならんのでしょうか?なんで『君が代』?残念ながらあの曲の伴奏は弾けません。『GREENSLEEVES』ですよ、歌ったのは。BA氏がアイリッシュなので、歌詞を教えて貰ったのです。ふーんだ。
★この時完成した彫刻が丸正のどこに飾られているのか、私たち3人には何も知らされていない。彫刻が日本に届いた時、飯塚正司会長は病床にあったそうで、あの重い彫刻を病院まで運ぶわけにもいかず、写真に撮って見せたらとても喜んでおられたとのこと。その飯塚会長も3年前に永眠された。お見送りの際、ケベックの空港で「ありがとう!ほんとにありがとう!」と私の手を握って何度もお礼を言われた飯塚会長の姿を私は忘れない。
★スキャナーではなく、しかも8年前の写真からの直撮りなのでゴーストがいっぱいだし、色があまり鮮明ではありません。別に誰に公表するともなく、大事に持っていた写真を初めて公の場所に出しました。もし、どこかでこの彫刻像を発見された方はどうぞご連絡願います。(因みに丸正歴史記念館の外に飾られてある飯塚ご夫妻の銅像はこれとは違います)
仕上げに特殊なオイルを使っているので、彫刻の色はだいぶ赤色が強く出ている石です。

日本への発送直前に撮影。