行き着く先は弁当であった・・・

先日テレビでナイトショーを観ていたら、ある米国人女優が出ていた。
彼女のご主人も親の代からの有名な俳優だ。
彼女は私の好きな女優の一人であったが、インタビューに答えた一言でサーッと彼女が嫌になってしまった。
「私は料理はしないから」
実に彼女はこの言葉を堂々と、当然といった風貌で言ってのけたのだ。
インタビュアーの男性が「あなたのゴルフの腕前は大したものだそうですね。皆さんの前でぜひとも一度ご披露下さい」
すると彼女は得意そうに立ち上がり、何を勘違いしたのか丁度ゴルフボールが観客に飛んでいく方向に身構えた為、
スタッフらは大慌て、客席は騒然となった。
まったく危ない女である。スコーンとワンショット打つと何故かボールが白い粉と化した。
「ナーイスショット!!」
会場から「わあ」なんて歓声や拍手を貰い、彼女はすっかり有頂天であった。
料理もしないで連日ゴルフ通いなんだろうなあ、この人。
これでは魅力半減どころか魅力ゼロである。
子供もいるらしいが、実に哀れな子供だ。母親の作ったものが食べられないなんて!
もちろんこれだけの有名人であれば、調理人も雇っていることだし、そうそう台所に立つ時間も無いことだろう。
なにも有名人じゃなくとも家事が大好きという人はそうザラにはいないだろう。
毎日の献立を考え、毎日家族のご飯作りに追われるのにウンザリしたり、うつ状態になってしまう人もいるだろう。
私は極力、性差別は避けているが、この女優の一言を聞いて「女たるもの、何を言うか!」と、明治生まれの頑固なジイさまのような言葉が口をついで出てしまった。
女性が台所に立つのが避けられない現状があるのは確か。どこの世界でも同様であろう。
料理大好きの男性もいれば、必要に迫られて台所を手伝う男性も多かろう。
我が家の男性陣も、私が台所にいると落ち着かない様子で、自発的に手伝ってくれる。
しかし、である。
自分は料理はしない、なんて公衆の面前でいう言葉だろうか?
「料理は嫌い」ではなく「料理はしない」なんて!
人間生きていくのに「食べる」のを避けることはまず不可能である。
それを根本から拒否しているように私には聞こえたのだ。
これでは「女失格」の前に「人間失格」だ。
『ターシャの庭』でも、ターシャが小さな小鍋にパン種を作る場面がある。
あれは義母も同様であった。亡くなる直前まで自分の食事を作り、最後に倒れたのも彼女の台所だった。
こんな理想的な死はないと思う。
戦争時、大勢の子供たちに何を食べさせようかと、絶望の淵すれすれを生きた女性は多いだろう。
食べる為に、生きる為に、料理するのは人間として当たり前のことだ。好きや嫌いの次元ではなく。
私は幼い頃から自由な家風に育ったせいか、他人も自分も自由に生きるというのが人生テーマだし、他人に押し付けがましいことや説教じみたことを言うのは、また言われることは大変苦手だが、人間として「生きる」ことを拒否したり、軽んじたりする言動だけはどうしても許せない。
「料理をしない」だけでなく他にも「(子供がいるのにも拘らず)子育てはしない」「掃除はしない」も、同様腹が立つ。まるで「排泄しない」「寝ない」「歩かない」「泣かない」などとと言っているにも等しいではないか。
「料理しない」のは人の勝手だ。それで死のうが生きようが、人の自由だ。
でも、公衆の面前で堂々と発言して威張れる事ではないのだ。
きっとこういう事で平気で威張れる人って、すごく親から甘やかされた人なんだろうなあ。
そしてきっとすごく育ちが悪い、成金上がりみたいな人なんだろうなあ。
皇族の皆さんだって家事一切叩き込まれるのだ。


ところで今書いていてふと思い出した余談だが、人の泣く行為を止めようとする人も私は大嫌いだ。
慰める意味での「泣かないで」は優しくていいけど、「これしきのことでメソメソして!」なんて結局そう言っている本人のやせ我慢みたいで実に見苦しい。
夫の妹で私が嫌っている彼女は、臨終時になると決まって一人で回りの人々に「泣かないで!泣かないでよ!嗚呼、イライラする!泣くなったら泣くな!」と騒ぎ立てる。
一種のヒステリー発作だろうが、頭に来た私は彼女に「うるさい!自由に泣かせてくれ!」と怒鳴ったことがあった。
どういうわけか、彼女の家族も兄弟も彼女をチヤホヤする傾向があり、これも私の気に入らないところだ。
彼女を怒鳴りつけたのは私が初めてだったそうだ。ま、彼女を嫌う理由は他にも数え切れないほどあるが、今急にこうして思い出しただけでも相当腹立たしい!
幼い頃、彼女は気に入らない事があると、地団太踏んで大暴れする駄々っ子だったそうだ。
まさに「三つ子の魂百までも」である。そんな訳で彼女も当然私を嫌っている。
「泣く」という行為は最大のストレス解消と聞いたことがある。泣きたい時は泣いた方がいい。
確かに泣くと気分がさっぱりするのは私だけか?


話は戻り、長男の近辺にも「料理しない」発言の女性が多いらしい。
料理に時間を掛ける女性など馬鹿呼ばわりするそうだ。
結局は「私は実は料理が出来ない」という劣等感の裏返しなのだろう。
料理したくない時は、弁当、店屋物、ファーストフード、総菜屋、誰かに作ってもらう、インスタントラーメン、お茶漬け・・・・大いに結構だ。
私も料理は好きな方ではない。夕方台所に立つのが死ぬほど嫌な時も度々。
ご飯と味噌汁だけは作って、惣菜は買ってくる、
届けてもらう(ラーメン屋から八宝菜や餃子を届けてもらうとか)、が日本では可能だ。
いいなあ!羨ましいなあ!24時間いつでもおにぎりや弁当が買える。嗚呼!!!
大そうな勢いで一女優を非難したが、こうして日本の食事情への憧れを以て、本日これにて終了!